【読んだ】オオグソクムシの謎 深海生物の「心」と「個性」に迫る(森山 徹)
深海生物「オオグソクムシ」やダンゴムシの実験を通して彼らの「心」に迫る研究の成果が記された一冊。
読んだ本は何かしら身の肥しにするために、アウトプットしていこうと思います。1冊目にこのチョイスでいいのかどうかは謎ですが、なるべくいろんな分野を読んで、拙いなりに感想文を残しておこうと思います。
ダンゴムシの研究をしている著者だが、本書は話題の(?)オオグソクムシの研究をテーマに置いている(でも後半の内容はどんどんダンゴムシの研究になっていく)。
様々な実験を通して、オオグソクムシ(とダンゴムシ)に「心」はあるか、というのが本書のテーマである。ダンゴムシの行動実験から、一匹一匹に個性が見えてくるあたりなど、興味深く読むことができた。
ダンゴムシの行動実験から見える心と個性
ダンゴムシが連続して障害物にぶつかると、右→左→右…と交互に方向転換することは話に聞いていたが(実験してみた気もするけど定かではない…こんどやろかな)、無限にT字路を進ませ続けると普段は抑制された「壁をのぼる」という行動があらわれる(筆者はここに「心」を見出す)。
また連続してT字路を歩かせる実験では、左→左や右→右と曲がることも稀にある。また、交互に曲がる規則を早い段階で逸脱する個体もいれば、最後まで交互に曲がり続ける個体もいたり、左に行こうと思ったけど思いなおして右に行く行動や、連続して同じ方向を曲がったあとは左右交互に規則正しく進む割合が高い、など、詳しく分析すると個性ともとれる結果が見えてくる。
また、この左右交互に進むメカニズムについてもいくつかの説明がなされているが、中学生の研究成果も紹介されていて興味深い。ていうかレベル高くてすごい。
本書おテーマ「心」については…
…といった研究結果は興味深く読めたが、肝心の「心」に関する説明には、その定義からして正直あまりしっくりとはこなかった。6章「心は妖怪」のあたりになってくるとだいぶ香ばしいかほりが漂っている気がする。。。もちろん自分は専門家ではないので、ちゃんと勉強したら意味が分かるという類のものなのかもしれませぬが。
このへんにピンとくることができなかったので、残念ながら自分にはオオグソクムシの心に関する研究になるほど感を感じることができなかった。
研究者側のストーリーが面白い
この本はむしろそういった生物の不思議よりも、オオグソクムシと出会ってからの著者の行動の部分がドキュメンタリーとして非常におもしろい。
オオグソクムシに対して「彼らが何を考えているのか」知りたさに、ほかの研究者のところに押しかけていったり、実験がうまくいかなくて試行錯誤したりする筆者。オオグソクムシの行動を研究するため、水槽に流し込む寒天のレシピをなぜか極める研究生。また他の研究者や研究室の人とのかかわりなど。そういった描写も細かく描かれていて、いちいち面白かった。
「実験の結果これこれだとわかる」という内容もそれはそれで面白いが、本書はその準備段階や試行錯誤の過程、また実験結果をどのように解釈するかという検討部分の、このプロセスに触れることができる点がこの手の本の醍醐味だと思う。
ダーウィンが両手にカブトムシを持った状態でさらに珍しいカブトムシを見つけた時に、思わず手に持っていたカブトムシを口に入れ、空いた手で三匹目を捕まえようとした話は有名ですが、この手の研究者からはダーウィンの逸話さながらに純粋で抑えきれない好奇心みたいなのを感じて、一緒になってワクワクすることができて好きです。
好きな人ならけっこうおもしろく読めると思うし、まったくピンと来ない人には全然おもしろくない、好みの分かれる本ではあるかと思います。